遺留分侵害額請求権について

「遺留分」とは

「遺留分」とは、一定範囲の相続人に対し、遺産の一定割合について、相続分を保障する制度です。

もう少し具体的に言えば、被相続人の配偶者、子、直系尊属(両親、祖父母など)に対し、配偶者や子については2分の1,直系尊属のみが相続人の場合は3分の1については、相続する権利を保障されます。

なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。

ですから、被相続人が血縁のない第三者に全財産を遺しても、兄弟姉妹は遺産について遺留分を請求することはできません。

遺留分が問題になる典型例として次のような場合があります。

  • 被相続人が、家の跡継ぎである長男に全財産を相続させるという遺言書をのこした。
  • 被相続人が、生前に自宅土地建物を長男に贈与していた。
  • 被相続人が、晩年に世話をしてくれた交際相手に財産を贈与してしまっており、死去時には大部分の財産がなくなっていた。

どういう場合に遺留分の侵害が起きるのか

被相続人は、生前は自分の財産を自由に処分できるのが原則です。自分の物(お金)だから当然のことです。

ですが、被相続人が死亡して相続が開始した時、遺留分を有する相続人が相続で取得した財産が遺留分の額に満たない場合、遺留分の侵害があったといえます。

この場合、遺留分を侵害された相続人は、贈与を受けた相手方に対し、侵害された遺留分を戻すよう請求することができます。

民法改正により「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害額請求権」に

2017年の民法改正により、改正前は「遺留分減殺請求権」とよばれていた権利が、「遺留分侵害額請求権」と名称が変わりました。

改正前の「遺留分減殺請求権」では、遺留分を侵害された者が,贈与又は遺贈を受けた者に対し,遺留分侵害の限度で贈与又は遺贈された物件の返還を請求する権利、とされていました。

つまり、亡くなった人(被相続人)が遺留分を侵害するような物(美術品や宝飾品などもあり得ますが、実際にはほとんどの場合、不動産でしょう。)を贈与したり、遺贈した場合には、遺留分権利者は、受贈者に対して、その物自体の返還を請求できる権利でした。

その物の価値のうち、遺留分を侵害された割合をお金で請求できる権利ではなかったのです。

そのため、受贈者がお金を払えない場合、物(不動産)を遺留分権利者と受贈者の共有にして終了、とせざるを得ませんでした。

ですが、遺留分を行使する相続人は通常、遺産の中から法律で保障された自らの持分(遺留分)に相当するお金を支払ってもらうことを望んでいます。

受贈者としても、不動産を取得した場合等には、共有者となるよりお金を支払って解決したいと考える場合が多く、実情に合わない面がありました。

そこで、民法の改正により、遺留分は、「物件の返還を請求する権利」から「金銭を請求する権利(債権)」に変わりました。

そして、権利の名称も「遺留分侵害額請求権」と変わりました。

遺留分侵害額請求の対象となる行為

遺留分の侵害となり得るのは、被相続人が行った贈与ですが、具体的には以下の4つの贈与です。

贈与の相手方は、相続人も相続人以外の第三者のいずれも対象となります。

  1. 被相続人が相続開始前の1年間に行った贈与(改正後民法1044条1項第1文)
    例えば、被相続人死去の数か月前に、被相続人が、介護をしてくれていた人に財産を贈与する契約をした場合、その金額があまりに多ければ、遺留分の侵害になる可能性があります。

  2. 被相続人が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与(改正後民法1044条1項第2文)
    例えば、法定相続人が長年不仲だった子ども1人しかいない被相続人が、死去の2年前に慈善団体に全財産を贈与する契約をしたような場合です。
    この場合における「損害を加えることを知って」とは、被相続人が、相続人の遺留分を侵害する、という認識があればよいとされています。
    例えば、被相続人が、子どもが経済的に困っていることを知っているのに不仲なのであえて財産を残さないようにするといった、相続人を加害する意図は不要とされています。
    また、この場合の贈与には1.のような期間制限がありませんので被相続人死去の数年前に締結した贈与契約も含まれます。

  3. 被相続人が相続開始前10年間に行った共同相続人への特別受益の贈与(改正後民法1044条3項)。
    例えば、被相続人死去の9年前に、結婚する子供に対して、結婚資金を贈与したような場合です。
    民法改正前は、相続開始から10年以上前に贈与した場合でも遺留分の侵害にあたると解釈されていましたが、改正法により、「相続開始前10年間」に限定されました。

  4. 被相続人が不相当な対価で行った有償処分(改正後民法1045条2項)
    例えば、被相続人が売買契約で、1000万円の価値がある絵画を10万円で売却した場合です。
    この場合、形式的には売買契約になっていても実質的には贈与に近いので、遺留分の侵害として規定したものです。
    但し、この場合が遺留分の侵害になるのは、被相続人と財産処分の相手方の双方が、遺留分の侵害になることを知っていたときに限られます。

「遺留分減殺請求権」と「遺留分侵害額請求権」の相違点

改正前民法の「遺留分減殺請求権」と改正後民法の「遺留分侵害額請求権」の両制度には様々な違いがありますが、代表的なものは以下のとおりです。

1.発生する権利

前述のように「遺留分減殺請求権」は、物の返還を請求する権利です。
これに対し、「遺留分侵害額請求権」は、お金を払うよう請求する権利(金銭債権)です。

2.行使期間

「遺留分減殺請求権」は以下のいずれかの期間の経過により消滅します。

  1. 遺留分権利者が「相続の開始および減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」から1年間を経過した場合(改正前民法1042条前段)。
  2. 相続開始から10年間を経過したとき(改正前民法1042条後段)。

ただ、以上の期間内に遺留分権利者が減殺請求の意思表示をすれば、その結果として発生する目的物返還請求権等は、自分の所有物の返還を請求する権利なので、消滅時効にはかからないと考えられています。

これに対し、「遺留分侵害額請求権」は以下のいずれかの期間の経過により消滅します。

  1. 遺留分権利者が「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」から1年間を経過したとき(改正後民法1048条)。
  2. 相続開始から10年間を経過したとき(改正後民法1048条)。

ここまでは「遺留分減殺請求権」と同じですが、遺留分権利者が減殺請求の意思表示をしても、その権利は金銭債権なので、5年間の消滅時効期間が過ぎれば、時効により権利が消滅する可能性があります(改正後民法166条1項1号)。

「遺留分侵害額請求権」の制度はいつから適用されるか

被相続人の死去が2019年6月30日より前だった場合は「遺留分減殺請求権」の制度が適用されます。

被相続人の死去が2019年7月1日より後だった場合は「遺留分侵害額請求権」の制度が適用されます。

おわりに

相続に関する民法の様々な規定の中でも、「遺留分」という考え方はご存知の方が多く、相談を受けることが多くあります。

ですが、遺留分の制度自体は非常に難解で、遺留分が侵害されているのか、侵害されているとしても侵害額の計算は非常に複雑になるケースがあります。

その他にも、いつまで遺留分侵害額請求が可能か、請求するとしてどのような方法で行うべきかなど、専門的な判断が必要になるケースが多くあります。

遺留分について問題を抱えている場合は、ぜひ弁護士に相談することをお勧めします。

以上

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